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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)1766号 判決

原告 池田保友

被告 中野正明

右訴訟代理人弁護士 加藤義則

右訴訟復代理人弁護士 福永滋

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

原告が被告から、原告主張の日、その主張する代金で、本件土地、建物を買受けたことは当事者間に争がない。

原告は本件土地について、その売買が数量を指示した売買であると主張するので判断する。

成立に争ない甲第一号証の記載と証人池田菊、同池田清利、同中野恭子の各証言をあわせると本件土地建物の売買契約は被告の代理人である妻中野恭子と原告代理人である池田清利との間で締結されたのであるが右契約の際原告側は本件土地建物の現場に臨んでこれを見、また恭子は清利に対し、本件土地建物の登記済権利証を示し、契約書には目的物件として登記簿にあるとおり「東京都練馬区東大泉一四三番地一、土地五十五坪四合五勺付(現状の侭)」(他は略す)と記載せられたので、右原告代理人は土地の坪数五五坪四合五勺は実際もあるものと信じ、その現況をあえて恭子に確めもしなかつたこと、売買代金については前記のとおり原告が被告の住宅金融公庫に負担している債務金四三万四、八〇〇円を引受けるほか現金金七八万円を支払うこととして土地建物を一括した合計金一二一万四、八〇〇円とせられたものであり、ただその際清利は右土地の近隣の土地の相場は坪当り一万五、〇〇〇円位だから現金で支払う七八万円が本件土地の価格に相当するものであろうと考えて右売買代金額に同意したものであることが認められる。右認定に反する証拠はない。以上の事実によつてみれば原、被告間の本件土地の売買は、本件土地の公簿上の坪数と同じだけ実測坪数もあるものとしてこれを確保し、一坪当りの単価に右坪数を乗じて土地の代金を定めたというものではなく、土地と建物とは一括して全体の代金が定められたものであることが明らかである。土地の売買においてそれが民法第五六五条にいう数量を指示した売買であるとするためには当事者が売買の目的たる土地につき特に一定坪数の存することを確保し、代金もこの数量を基準として算出の上定められたような場合であることを要するものと解すべきところ、一般に土地の売買においてその目的物件の表示として登記簿上の地目、坪数が記載された場合は登記簿の表示が必ずしも実際と符合しないことはむしろ取引上常識に属するところからみてこれをもつて直ちに右坪数の存することを確保したものというべきではなく、原則として単に目的土地を特定表示するためのものと解すべきであるから、このような場合は右にいう数量を指示した売買というべきものではない。従つて本件の場合も被告が公簿上の坪数を表示したのは本件土地の特定表示のためであり(契約書に「現状の侭」なる表示があることもむしろその趣旨であることを示すものといい得るところである)しかも、土地だけの売買代金としては何も定めず、坪当りの単価もきめたものではなく土地建物は一括して代金を定められているのであるから、結局本件土地の売買は数量を指示した売買ではないと解するを相当とする。従つてこの点の原告の主張は失当である。

なお、原告は本件土地は契約坪数より一四坪不足していると主張し、証人池田清利の証言の中に、右主張にそう如き部分はあるが、成立に争のない甲第三号証の記載と証人中野恭子の証言とをあわせれば本件売買の土地中には幅員四メートルの私道敷部分を包含しているところ、右私道敷を除いた部分のみで四二坪余があるのみでなく、現に右私道敷部分を相当建物敷地内に取り入れていることがうかがわれるから、右証人池田清利の証言はたやすく信用し難く、他に右事実を認めるに足る証拠もないからこの点においても原告の主張は失当である。

以上の次第であるから原告の本訴請求は理由がないものとして棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浅沼武)

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